一審判決 273P26行目冒頭〜275P10行目末尾

1被告は,原告■■■及び同■■■■を除く原告ら全員について,遅くとも原告らの脱会時には加害者及び損害を知っていたことが明らかであり,脱会から既に3年が経過しているとして,消滅時効の成立を主張する。
民法724条が消滅時効の起算点を「損害及び加害者を知った時」としているのは,被害者の知らない間に損害賠償債権が時効消滅するという事態を避け,被害者に権利行使の機会を確保するためである(潮見佳男「不法行為法」286頁)。このような趣旨にかんがみれば,同条にいう「損害及び加害者を知った時」とは,被害者が,損害賠償債権を行使することが事実上可能な状況の下,権利行使が可能な程度に損害及び加害者を知った時と解すべきである(最高裁・判所昭和44年11月27日第一小法廷判決・民集23巻11号2265頁,同昭和46年7月23日第二小法廷判決・民集25巻5号805頁,同昭和48年1コ月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照)。
そして,民法715条1項に基づく損害賠償債権における「加害者を知った時」とは,被害者が,加害者と使用者の使用関係の存在に加え,当該不法行為が使用者の事業の執行につきなされたものであると一般人が判断するに足りる事実をも認識することが必要となる(最高裁判所昭和44年11月27日第一小法廷判決・民集23巻1]一号2265頁参照)。
被告は,第1章及び第2章において認定した一連の活動について,統一協会とは別個独立の様々な団体(連絡協議会,信徒会,原理研究会,世界平和家庭連合,野の花会,しんぜん会,北翔クレインなど)が行っているという建前をとっているところ,それらの団体と統一協会との関係性については一般人からみても複雑であって必ずしも明白なものではなく,とりわけ,統一協会の信仰,を持っていた原告らにとっては,脱会後においても,被告の上記見解を否定し,被告に対する損害賠償債権の行使が可能であると判断することは極て困難であったと考えられる。
そして,前回訴訟の判決は,連絡協議会と統一協会との関係性について詳細な事実認定を行い,連絡協議会という統一協会とは独立の組織の存在自体が極めて疑わしいと判示した初めての判決であって、原告らにとっては,この判決の確定によって初めて,信徒会や連絡協議会ではなく,統一協会こそが賠償義務者であると理解することが可能となり,被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求が可能な程度に「損害及び加害者を知った」ものと解するのが相当である。
2 甲第3号証によれば,前回訴訟の判決が確定したのは平成15年10月10日である。したがって,それ以前に脱会した原告及び物品を購入した近親者原告については,同日から,損害賠償債権の消滅時効が起算されるというべきであり,原告■■■及び同■■■■以外の原告らの損害賠償債権について,訴え提起時までに消滅時効が成立していたと認めることはできない。


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