公序良俗違反論・準備書面(32)


被告統一協会との取引の無効−公序良俗違反

一1 宗教法人の主たる目的は「教義を広め、儀式行事を行い、信者を教化育成する」ことである(宗教法人法−以下表示を省略する−第二条)。
 宗教法人は宗教活動の外に公益的事業やその他の事業を行うことができるが、これらは付随的におこなうべきものなのである。
 「宗教法人は、公益事業を行うことができる。」(第六条第一項)
 公益事業とは宗教法人の主たる目的以外の公共の利益を図る目的のために営まれる事業で、かつ、営利を目的としないものをいう。

 2 宗教法人はその本質から(本来、俗事の典型である営利事業とは無縁である)、また公益法人の一種であることから、公益事業以外の事業を行う能力は制限されている。
 「宗教法人は、その目的に反しない限り、公益事業以外の事業を行うことができる。この場合において、収益を生じたときは、これを当該宗教法人、当該宗教法人を包括する宗教団体又は当該宗教法人が援助する宗教法人若しくは公益事業のために使用しなければならない」(第六条第二項)との規定が設けられたのは、宗教法人が第二次大戦後、農地解放により財政的基盤を喪失するとともに、戦後の経済的、社会的混乱の中で貨幣価値の下落、寄付金収入の減少などの事情があったので、宗教法人の財政的基盤の安定・確保を図るためであった(新宗教法人法 その背景と解説 中根孝司 第一法規 四二三頁)。
 右の事情が存在しなくなり、宗教法人の中に、豊富な資金力を用いてサリン等を製造してテロ行為を敢行したり、巨大な詐欺行為を行う組織が出現してきている現状では、六条第二項の規定は厳格に解釈・運用されなければならない。
 公益事業以外の事業とは、中間的事業及び営利事業であり、中間的事業とは公益、営利のいずれにも属さないものであって、構成員の相互扶助事業などがその主たるものである。

 3 宗教法人のおこなう営利事業は宗教法人の目的に反しない場合に限り行うことができる。宗教法人の目的に反する事業とは、宗教法人の目的を達成するための業務と矛盾し、またはその業務に支障を生じさせる事業をいうとされている。

 4 宗教法人が営利事業を行うには、その宗教法人での機関決定を経た上で、所轄庁で規則の変更について認証を受け、規則変更の登記手続を行い、監督官庁があるものについてはその許認可を受け、納税地の税務署に収益事業開始届出書の提出が必要である。

 5 所轄庁は宗教法人に第六条第二項違反の疑いがあると認めるときには「当該宗教法人の業務又は事業の管理運営に関する事項に関し、当該宗教法人に対し報告を求め、又は当該職員に当該宗教法人の代表役員、責任役員その他の関係者に対し質問させることができ」(七八条の二)、宗教法人が行う公益事業以外の事業について第六条第二項の規定に違反する事実があると認めたときは「当該宗教法人に対し、一年以内の期間を限りその事業の停止を命ずることができる」(第七九条)。

 6 右の停止命令に反して事業を行ったときには、その宗教法人の代表役員は処罰される(八八条)。

 7 宗教法人が行う営利事業については公益法人と同じく税法上の優遇措置がある。

 8 したがって、宗教法人法第六条第二項の規定は公の秩序を構成しているというべきであり、同項に違反する行為は公序良俗違反の行為として民事上無効なのである。

二1 法第六条第二項の規定に違反する場合とは、次のような場合をいう。
 @ 宗教法人の目的に反する種類の事業を行う場合、例えば投機的な事業、風俗営業に該当する事業など
 A 宗教法人の目的を逸脱する事業形態である場合、例えば宗教法人の本来の事業に支障が生ずる場合、本来の事業に比して著しく過大な場合や、宗教名目に信者を無償労働に従事させている場合など

 B 公益事業以外の事業から生じた収益を制限された使途(例えば当該宗教法人、当該宗教法人を包括する宗教団体、当該宗教法人が援助する宗教法人または公益事業)以外に使用している場合などをいうとされている。

 2 被告統一協会の行ってきた営利事業はその規模が宗教団体としてはあまりに巨大であること、過大な利益の追求を求めて通常の売価よりも著しく高価に商品を販売していること、「献金」は対象者の資産を把握しその資産の大部分を拠出させる目標を持って行われること、社会問題化しているため宗教法人本来の事業に支障が生じていること(このことは、被告統一協会が勧誘の当初に自己を秘匿せざるをえないことから明らかである)、利益の使途が法に違反していること、信者を宗教の名において無償労働に従事させていることなどから明らかに第六条第二項に違反するものである。
 したがって、統一協会の営利事業のために第三者とかわされた法律行為は無効なのである。

  三 被告統一協会は、全国しあわせサークル連絡協議会(以下「連絡協議会」という)が営利事業を行っていた(現在は信徒会が行っている)のだという。
 仮にそうであるとすれば、連絡協議会は、法人格を有する宗教法人である統一協会が宗教法人法六条第二項違反の責任を問われることを回避しつつ、統一協会にとって最も重要な実践課題である万物復帰、すなわち、法違反の営利活動を行うために設立・運営していた組織であるから、この組織そのものが、強行法規を潜脱するための存在として、公序良俗違反なのである。
 連絡協議会が六条第二項を潜脱するために組織・運営されていたものであることは、その存在をその組織構成員にすら明示していなかったという事実からも推認することができよう。
 したがって、連絡協議会が行った、信者勧誘活動、献金勧誘活動によって第三者と締結された契約は無効なのであるし、被告統一協会は連絡協議会の行為に法的責任を負うのである。

以上


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